ショーセイの新米ジム会長奮戦記 no.43

新田 渉世 
(元東洋太平洋バンタム級王者)


 Sさん


 昨年2月にジムを立ち上げる以前、私は3年間ほどサラリーマンを経験した。当時同じ部署にいた先輩女性Sさんが、友人と二人で新田ジムに入会してきた。Sさんは大柄のガラッパチで、その竹を割ったような性格は、性別を問わず誰からも好かれていた。酒好きのSさんや同じ部署の仲間達とは、仕事帰りによくドンちゃん騒ぎをしたものだった。
 しかし、背広にネクタイ姿で「あのぉ、Sさん、このコピー機はどうやって使うんですか・・・?」などとやっていた私が、ジム会長としてSさんに指導する立場になってしまった時、口には出さなかったが正直言って困惑した。
 「Sさん、右ストレートはもう少し腰を回して打って下さい。左フックを打つ時は右のガードを下げないように―」などと偉そうに言いながら、コピー機の使い方すら分からず、会社ではいつもあたふたしていた自分を思い出していた。
 Sさんへの指導だけならともかく、選手や練習生を指導する時にはもっと偉そうなことを言っている。「ラスト30秒!ラッシュ、ラッシュ!!」と、サラリーマンが出さないような大声を張り上げたりもする。Sさんは、もともとそんなの全然気にするタイプではないのだが、私の方は結構やりにくかった。
私がようやく"新入社員と先輩"ではなく、"ジム会長と練習生"という関係に慣れてきた頃から、部署内での異動等で残業が激増したSさんは、ジムへ来る回数が減ってきた。「悔しい!毎日グローブと運動着をもって出勤してるんだけど・・・」と、Sさんは嘆く。もっとも八王子のオフィスから川崎のジムまで1時間かけて通ってくるわけだから、残業がなくてもかなりのエネルギーなのだが・・・
しかしSさんの面白いところは、スタッフや一般会員らで催す"飲み会"には必ず出席するところだ。酒好きのSさんは、"飲み会"ではいつも人気者。練習に来る回数は少ないのに、何故か皆の印象には強く残っていて、圧倒的な存在感を確保している。
また新田ジムプロ選手の試合では、後楽園ホールに駆けつけ、「おりゃあ、いったれ〜!!」と黄色い(?)声援を送る。選手の試合も大事なのだが、この「Sさんの声援がまた聞きたい」というファンが新田ジムには沢山いる。
私はサラリーマン時代の上司や同僚の歓送迎会などに、時々顔を出すことがあるが、Sさんが私の代わりに新田ジムの近況報告をしてくれる。しかし時間というのは不思議なもので、昔の上司や同僚といると、当時の新米サラリーマンに戻ってしまうものだ。新米ジム会長として奮戦してきた時間は一瞬忘れ去られてしまう。まだまだジム会長としての責任と自覚が足りないのだろうか・・・
ジムをオープンしてから1年が経過し、全体の会員数やプロ選手も増えてきた。責任と自覚が足りているのかどうか分からないが、いろいろと悩みの尽きない日々を送っている。
ところで最近Sさんを見ていないと思ったら、"飲み会"をしばらく催していなかった・・・

新田ジム 最新情報

・ 3/7(日)に行われたJBスポーツスパーリング大会に、新田ジムプロ準備生4名が出場し、山口陽司が判定勝ちを収めました。他3名は残念ながら黒星を喫してしまいました。

・ 3/9(火)、現役東大生の酒井知基が2度目のプロテストに見事合格し、昨年12月の雪辱を果たしました。新田ジムプロ選手は合計11名となりました。

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新田渉世(にった・しょうせい) 
87年、横浜国大2年の時にプロデビュー。96年10月にOPBFバンタム級王座を獲得し、「国立大卒初の王者」としても話題となった。
34戦23勝(17KO)9敗2分

新田ボクシングジム   
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TEL 044-932-4639
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