ショーセイの新米ジム会長奮戦記

新田 渉世 
(元東洋太平洋バンタム級王者)


 赤門ボクサーの不運

 

  新田ジムでは、ひとりの現役東大生がプロ選手を目指して頑張っている。酒井知基―彼は今春大学を卒業し、大手広告代理店D社へ就職することが決まっている。
「就職前にプロライセンスを取得し、出来れば1戦やりたい―」そう言って新田ジムに入会して来た彼の希望をかなえるべく、私は手を尽くした。"初の国立大出身王者"の新米会長と、"現役東大生ボクサー"という師弟コンビは、きっと話題になるだろう―というちょっとした策略も脳裏をかすめていた。
 昨春、早々にD社からの内定を得た酒井は、「スポーツ・マーケティングの部署に所属し、広告代理店という立場からボクシングビジネスに関わりたい」という希望をもっていた。「卒業まで特にすることもなく、学校へも週1回くらい行けばいいだけ―」という環境を得た彼は、業界のことをいろいろ勉強したいということで、新田ジムのマネージャーとしてジムの仕事を手伝いながらトレーニングに励んだ。
 私は彼をスパーリング大会やコラムの取材などに同行させ、なるべく多くの業界関係者に紹介するよう努めた。マネージャーをしながらプロライセンス取得を目指している伴流ジムの浅谷和範氏や、大手自動車メーカーのサラリーマンでありながら花形ジムマネージャーを務める南健司氏らとは、似た立場であることから意気投合した。酒井にとっては貴重な財産となったに違いない。
 このようにマネージャーとして業界について勉強し、人脈を築いていくことについては順調にことが運んでいた。しかしボクサーとしてプロライセンスを取得し、リングに立つことについては数々の障害が彼を襲ったのだった。
 まずは彼が住むアパートに空き巣が入り、たまたま預金から引き出していた多額の現金を奪われ、生活に支障をきたすほどの経済的ダメージを被った。プロテストを申請してからも、肝臓疾患、足の甲の炎症、足の裏のマメが化膿―と、肉体的障害の為になかなかまともなトレーニングを継続することが出来なかった。そして迎えた12月のプロテストでは、残念ながら不合格。悔し涙を飲んだ。 
 卒業まであと4ヶ月―。申請から受験まで3ヶ月の待ち時間がある現状を考えると、あと1回しかチャンスはない。私と酒井はよく話し合った末、もう一度プロテストの申請を行った。おそらく3月になるであろう就職前のラストチャンスに賭けることにした。
 ところが、酒井の不運は続いた。ある日、別件で日本ボクシングコミッションに電話をかけた際、酒井知基のプロテスト申請が受理されていないことが発覚した。Oh my God !何度問い直してみても、「申請書は届いていない」という言葉しか返って来なかった。酒井は郵便局に追跡調査を依頼したが、投函したはずの申請書の行方は解明されなかった。
 「何としてもボクシングをやった証を残したい―」彼は就職前に海外でプロライセンスを取得することを考え始めた。どうなることやら・・・。とにかく、新米会長は出来る限り協力しようと考えている。


新田ジム 最新情報

・ 1月26日(月)後楽園ホールで行われる「ゴールデンチャイルドボクシングVol.69」に出場する西禄朋の試合が、相手選手負傷の為中止となりました。当日は2Rのエキジビションと本人からの挨拶を行う予定です。竹内俊介、佐藤祐樹の試合は予定通り行われます。
   
・ 2月10日(火)、岡田祐也、前田弥、笈川慎也のプロテストを受験することが決定しました。新田ジム所属のプロ選手は現在7名。1月27日(火)受験予定の井上真を含め、新たなプロ選手誕生が期待されます。   

 

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新田渉世(にった・しょうせい) 
87年、横浜国大2年の時にプロデビュー。96年10月にOPBFバンタム級王座を獲得し、「国立大卒初の王者」としても話題となった。
34戦23勝(17KO)9敗(3KO)2分

新田ボクシングジム   
神奈川県川崎市多摩区登戸2832 小田急線向ケ丘遊園駅徒歩5分
TEL 044-932-4639
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