ショーセイの新米ジム会長奮戦記
新田 渉世
(元東洋太平洋バンタム級王者)
“普通の中年男性”の正体は……
私は現役を引退した後、3年ほどサラリーマン生活を送った時代があった。当時私が大変お世話になった"後見人"とでも言うべき上司のSさんが、新田ジムの会員第一号として入会して下さった。しかし、一部上場企業の役員という立場でそうそうジム通いをしている時間など無く、立ち上げ時の後援会的な意味あいで毎月の会費を納めてくれていた。 公私共に大恩人であるSさんから、ある日突然ジムに電話が入った。「今日、汗流しに行ってもいいかな?」私は大慌てでその日入っていたスケジュールを全てキャンセルし、Sさんの訪問を歓迎した。スタッフには粗相の無いように言い聞かせ、万全の体勢でSさんをお迎えした。 いよいよSさんがジムの扉を開き、スーツ姿で"こちらの世界"に足を踏み入れて来た。事前に私が言い聞かせていたせいもあったのだろうが、一瞬ジム全体に緊張した空気が流れ、そしてまた普段の活気と汗臭さを取り戻していった。 更衣室で運動着に着替えて出てきたSさんは、50台半ばの"普通の中年男性"だった。準備体操と縄跳びでウォームアップを済ませると、新米会長は自ら手取り足取りボクシングの基本を指導していった。「最近運動不足で困ったもんだ―」と言いつつ、Sさんのボクシングセンスには目を見張るものがあった。基本フォームをほぼマスターし、ミット打ちの練習を始めると、そのバランスの良さとパンチの強さに私は感動すら覚えた。 Sさんより少し遅れてジムに到着し、事情を理解していなかったひとりのトレーナーが、「いいねえ、そう、そう、もう少し肩の力を抜いた方がいいな―」と、サンドバッグを打つ"普通の中年男性"に親切に指導をした。新米会長は大慌て!「いやあ、この人は実はね・・・」と、ひとりで必要以上に気を使っていたが、Sさんは謙虚にトレーナーの指導に耳を傾けていた。"後見人"としてずっと面倒をみてくれたSさんに、「会社を辞めてジムを始めたい」と告白した時、「オレを会員番号1番にするならいいだろう」と言ってくれ、月会費を"寄付"し続けてくれた―そんな男気に感服し、心酔しているが故に必要以上に気を使ってしまったのかも知れない。 Sさんは一通りのトレーニングを終えると、シャワー室で汗を流し再びスーツに身を包んだ。そして私達はジム近くの焼肉屋へ食事に出かけた。ジョッキを一杯空け、私は面と向ってひと言、初めてこう告げた。「本当に申し訳ありませんでした・・・」一度はサラリーマンの世界の門を叩き、Sさんの下で戦うことを誓ったにもかかわらず、戦線を離脱し再びボクシングの世界へ戻ってしまった。決して後悔はしていないが、当時は苦渋の決断だった。 「時は流れてるのさ・・・」そう言ってジョッキを飲み干したSさんは、新米会長を新横浜の行きつけの飲み屋へ連れて行き、ふたりは終電までドンちゃん騒ぎで盛り上がった。 今、私がやるべきことは"こちらの世界"で一丁前にやっていくこと―新米会長は決意を新たに終電に飛び乗ったのだった。
新田ジム 最新情報
1月20日(火)から2月14日(土)まで、新田ジム冬期限定女性クラスを行います。夏期限定女性クラスが好評だった為、ご要望にお答えして開催することになりました。 詳しくは新田ジムホームページをご覧下さい。
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