ショーセイの新米ジム会長奮戦記
新田 渉世
(元東洋太平洋バンタム級王者)
ある中学生の入門
横浜から1時間近くかけて新田ジムに通ってくる中学生がいる。入会当初、中学2年生だったM君との出会いは、知人に紹介されたある中学教員からの電話がきっかけだった。「生徒達が文化祭の企画で『いろいろな世界で活躍する大人達の話を聞く』という発表をするので、一度話をしてやって欲しい」とのことだった。私は快く引き受け、自宅近くの広場で生徒達と会うことになった。
訪ねてきた男女数名の生徒達の中にM君がいた。ひとりだけ少し斜に構えた感じで、なかなか心を開かない様子だった。私は生徒達に、小学生の時にプロボクサーになろうと決心して家出をしたこと。中学時代にテストを白紙で提出して落ちこぼれていたこと。一念発起して国立大学に入学したこと。なかなかチャンピオンになれず、デビュー10年目でやっと王座を獲得したこと。引退後アメリカで一年間暮らしたこと。帰国後3年間サラリーマン生活を送ったこと。近々ジムを開設する予定であること―などなど、自分の辿った道を飾らずに喋った。彼らは、そしてやがてM君も目を輝かせ、身を乗り出して私の話に聞き入ってくれた。
数日後、彼らからお礼の手紙と文化祭の招待状が来た。「当日、特別ゲストとして体育館で全生徒に話を聞かせて欲しい。」とのことだった。スーツを着込み、チャンピオンベルトを抱えて、横浜にあるその中学校まで足を運んだ。本番当日の慌しさの中、率先して皆の指揮をとるM君の姿があった。キラキラした目で私に段取りを説明するM君は、初めて会った時とは別人のようだった。
本番が始まり、私は打合せ通り客席の最後列で待機していた。彼らの発表の後、「実は今日、新田さん本人が会場に来ているんです!」というアナウンスと共に、私はベルトを肩に抱え、カッコ良い入場音楽と共に颯爽とステージに登場して話を始める―という段取りだった。しかし・・・、そこはまだ中学生のやること。生徒達の発表が予想外に長引いてしまい、私が話をする時間はなくなってしまった。最後に急いでステージに上がり、手短に紹介されてそそくさと退場―という結構カッコ悪い状態になってしまった。しかし、彼らの一生懸命な姿を眺めながら私は思った。「ま、いっか・・・」
教員から、M君の家庭事情はかなり複雑であることを聞いた。「彼、ボクシングをやりたいって言い出したんですよ・・・」まだ中学生ということもあり、どうしてもやりたいなら、とりあえず近隣のジムへ通うことを勧めたらしい。直接M君と話をしてみると、彼は照れくさそうに「どうしても新田さんのジムへ通いたいんです。」と、力を込めて言った。私は「ジムの準備が出来たら連絡する。」という約束をして彼と別れた。 数ヵ月後、ジムオープンと共に彼は入会して来た。話を聞けば聞くほど、彼が乗り越えてゆかなくてはならない壁は山ほどあるようだ。彼の人生を見つめてゆくことも、ジム会長の大きな仕事のひとつだと考える。大変だぞ・・・
新田ジム 最新情報 ・11/13(木)東京後楽園ホールで行われたプロテストに、新田ジムより2名の選手が受験しました。翌11/14(金)には、結果が出ていることと思います。 ・11/16(日)午後1時より、第三回新田ジムスパーリング大会が開催されます。 西禄朋、竹内俊介、ハンマー浜里、佐藤祐樹らのプロ選手も4名出場する予定です。
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