ショーセイの新米ジム会長奮戦記
新田 渉世
(元東洋太平洋バンタム級王者)
帰ってきた謎の男の人生は……
ジムオープン初日から練習にやって来た謎の男Tさん―。47歳の小太りの体に鞭打ち、一通りのメニューを終えた頃には、精魂尽き果てて生気を失っていた。心配していた通り、それ以来彼は来なくなってしまった。「ボクはね、何をやっても続かなくてね・・・」入会申込み時のTさんの言葉が思い出された。「スポーツクラブと違って体力面、技術面の向上が実感出来るし、人間同士の関わり合いもずっと面白いと思いますよ!」そう言って"ボクシングジム"という空間をアピールした私は、このまま彼が来なくなってしまうことだけは、何としても食い止めたかった。 エアロビクスインストラクターで、現在"ストレスパンチ"(女性向けボクシングエクササイズ)や"ダンベルエクササイズ"のインストラクターをしている妻が、精魂尽き果てていたTさんにストレッチングの指導をした。鬼のような形相でメニューをこなしていたTさんも、この時だけは頬がゆるんでいた。 2週間たってもジムに来ないTさんに、私は電話をかけることにした。「あの日の夜は、足が痛くて一睡も出来ませんでした。その後もずっと痛みがとれず、医者へ行ったら『とにかく安静にしてろ』って言われたもんで・・・。」数日後、恥ずかしそうな顔でジムにやって来たTさんの姿を見た時は、ホッとしたような何とも言えない嬉しい気分だった。「Tさん、待ってたんですよ!もう、心配してたんですから!!」そう言って妻は彼を大歓迎した。「あの電話と奥さんの歓迎がなかったら、きっともう行かなかったと思います。」後にTさんは述懐している。 それからというもの、週1回ペースでジムに通い始め、半年後には多い時で週5回もトレーニングに来るようになった。初心者の多い新田ジムでは、ベテランの風格さえ漂わせている。グローブ、ヘッドギア、マウスピースも自分の物を購入し、マスボクシングまでこなしている。コツコツと続ける姿は私達に感動さえ与えている。 時間と共に会話の増えてきたTさんは、仕事や家族のこと、歩んできた人生等々、いろいろなことを話してくれるようになった。「ここへ来るようになってから、以前履いていたズボンが、全部ブカブカになってしまいました」精悍になった顔で朗らかに笑う。「ボクが続けば後から10人位まとめて入会しますから・・・」入会時にそう語っていた通り、彼の職場からは続々と入会者がやって来た。「偉そうなことを言いますが、40代、50代の人に是非ボクシングをやって欲しいです。肉体的な自信は精神的な自信に比例すると思うんです!」―疲れた男達の心を癒す夜のパブクラブで管理職を務めるTさんは、声を大にしてそう叫んだ。 Tさんのような人も、選手育成に励むと同時に、新田ジムの宝として大切にしてゆきたい。
新田ジム 最新情報
10月13日(月)におこなわれた角海老ジムスパーリング大会出場者は、5名から4名に変更しました。2名は残念ながら敗退したものの、清水遊、笈川慎也はそれぞれ判定勝利をおさめました。 12月17日(水)のゴールデンチャイルドボクシングVol.68にて、新田ジムは2度目の共同プロモートをおこなうことになりました。
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