ショーセイの新米ジム会長奮戦記
新田 渉世
(元東洋太平洋バンタム級王者)
謎の男Tさんの体力は……
無事オープンパーティを終え、その4日後2003年2月5日、ついに"新田ボクシングジム"がオープンした。近隣のKジムにならって、営業時間は午後1時から10時30分に設定。初日の午後1時、オープン前に入会手続きを済ませていた会員の内6名が、記念すべき最初のトレーニングを開始した。
といっても全員初心者。何をすればいいのか全く分からない。私は学校の先生のように皆の前へ立ち、準備体操を一緒におこない、縄跳びも一緒に跳んだ。 一番端っこで、鬼のような形相で縄跳びをする白髪交じりの中年男性がいた。Tさん47歳。小太りでスポーツには全く向かない体型のこの男性、風貌はヤクザのようだし、こんな昼間の時間にボクシングジムでトレーニングとは、一体何者なのだろうか。 Tさんが入会手続きにやってきたのは、オープン3日前の夜更けだった。仕事をひと段落終え、スタッフ数人と一息ついていた時、突然ジムの扉が開いてパンチパーマにダブルの派手なスーツを着た男がつかつかと入って来た。一瞬、緊迫したムードがジム内を覆った。一応は"会長"という代表者の手前、腹に力を入れて彼の前へ歩み寄った。「誰に断ってここにボクシングジムなんか開いたんじゃ?!」―そんな言葉を想像しながら、どう対応しようか考えていると、「入会するにはどうしたらいいんですか?」と言うから「あ、いや、その、この申込書を書いて頂ければ・・・」と、一通り説明した。「ところで、このジムはヤクザなんかとは関わりはないですよね?」そんなのこっちが聞きたい位だったが、「基本的にはありません」と答えた。何が"基本的"なのか分からないが、少しは関わりがあるように匂わせて、舐められないようにしようとしたのかも知れない。けなげな抵抗だ。「ボクはね、何やっても続かなくてね、ボクが続けば後から10人位まとめて入会しますから・・・」と、ニッコリ笑った。笑うと以外と可愛い顔をしていた。 そんな謎の男Tさんが、オープン初日の午後一番にやる気満々でやってきた。準備体操を終え、3分2Rの縄跳びを死ぬほど辛そうな顔で乗り切り、シャドーボクシングへと移った。賑やかなバックミュージックと共に、何も分からない人達に手取り足取り一から教えていく中、こちらも少々緊張していた為、「あまり無理しないように、気をつけて下さいね」という程度のケアしか出来なかった。 最後までメニューを終え、ストレッチする頃には、Tさんの顔は生気を失っていた。もう少し気をつけてあげればよかった・・・。後悔と共に第一陣のトレーニングを終え、次々とやってきた第二陣の練習生達の指導へ入っていった。何をやっても続かなかったTさんに、また同じ思いをさせてしまうかも知れない。そんな心配と共に記念すべき初日を終えた。3年間のサラリーマン生活で完全に"普通の人"いや、それ以下の体になってしまっていた私もボロボロだった。
新田ジム 最新情報
10月13日(月)角海老ジムスパーリング大会出場者が決まりました。 ( )内はアマチュア戦績です。 山中昂(1戦1敗)、山口陽司(1戦1敗)、清水遊(1戦1勝)、 笈川慎也(1戦1敗)、野田峻(戦績なし)
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