ショーセイの新米ジム会長奮戦記
新田 渉世
(元東洋太平洋バンタム級王者)
強面だけど、頼りになる相棒の出現
トレーナーとして右腕となってくれることになった強面のS君は、オープン前の会員集めから精力的に働いてくれた。当初立てたアクションプラン5項目のうち、「資金確保」、「不動産確保」、「設備導入」の3項目(カネとハコと道具)については、大体メドがついた。残す「会員確保」、「業界参入」の2項目(人集めと顔売り)のうち、とりあえず一番重要な"人集め"に全力をあげる上で、S君の存在は非常に心強かった。 近所の飲食店に宣伝ポスターを貼ってもらったり、駅や学校の前でチラシを配ったりという地道な活動の中で、彼は大活躍をしてくれた。 生鮮市場の中卸業者として働く彼は、ジム近隣の飲食店に顔見知りがとても多い。市場での仕事中に飲食店のオーナーにあらかじめ頼んでおき、後で私と一緒にポスターを貼らせてもらいに行く―というコンビネーションで、沢山のお店に無料で協力をしてもらえた。後々、これは非常に大きな効果を生む要素となった。 駅や学校の前でのチラシ配りでも、市場での仕事を終えた後、眠い目をこすりながら毎日毎日私に付き合ってくれた。ひとりでチラシ配りをしている頃は、なかなか受け取ってもらえずに落ち込む日が多かったが、「2月5日、新田ジムオープンしまーす!よろしくお願いしまーす!」と、となりで彼が大声で叫ぶようになってからは、チラシを手に取ってゆく人数がだんだん増えてきた。彼の懸命な姿には、私の方が勇気付けられた。その後、私もひとりでチラシ配りに出かける時は、S君を見習って大声で叫ぶようになった。なりふり構わぬ姿勢を後輩から教わってしまった。 S君との初めての出会いは、17年程前にさかのぼる。当時Kジムの4回戦ボーイだった私が、練習を終えてジムを出ると、「新田さん、一緒に帰ってもいいですか?」と、坊主頭の小柄な少年が駆け寄って来た。「練習生のSです。」ジムで見かけたことはあったが、特に話したことはなかった。聞けば中学3年生だという。当時の私は、4回戦といえども一応はプロ。練習生の方からは声をかけにくい存在だったはずである。なりふり構わぬ姿勢は、そのころから彼の持ち味だったのかも知れない。同じ電車に乗って10分位話をした。S君はそのころからやや強面だったが、笑うと可愛い顔をしていた。 高校に進学した彼は、ボクシング部に入部し、アマチュアボクサーとしてキャリアを積んだ。大学を中退後、Kジムに戻ってきてプロボクサーになり、階級の近い私とよくスパーリングをする関係になっていた。いつの間にか身長は彼の方が高くなっていた。お互いに引退後は接点が無く、まさかこんな形で再会するとは想像もしていなかった。
強面のS君は、優男の私に代わってジムをビシッとしめてくれる役割を果たしている。"顔は怖いけど、選手思い"―これがSトレーナーのキャッチフレーズだ。
新田ジム 最新情報
8月3日(日)に、第2回新田ボクシングジムスパーリング大会を開催します。三人のプロ選手 石井フランシス(30)、西 禄朋(23)、竹内俊介(22)も出場予定。第1回に引き続き地域の人達を招いての、キッズ&レディスミット打ち、マスボクシング、スパーリングの3部構成です。 10月1日でビュー戦予定の、フランシス、西、竹内の対戦相手はほぼ目処がつきましたが、確定してからお知らせすることにします。
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