ショーセイの新米ジム会長奮戦記
新田 渉世
(元東洋太平洋バンタム級王者)
トレーナー募集もこれまた一苦労
健康、フィットネス目的でボクシングジムに通う人達が増えている昨今、平日遅い時間や日曜日まで"営業"しているジムが増えてきている。事業規模や立地条件、その他諸々の条件が似ていることから、私は同市内にあるKジムの"営業時間"を参考にした。平日は午後1時から10時30分まで、日曜は午後1時から5時までという時間設定をした。ただ、初めての"経営"と練習生達のコーチを、ひとりきりで、しかも休日なしでこなし切れるかどうか少々不安だった。 多少でも手伝ってくれるトレーナーが欲しい。いろいろなことを一緒に考えてくれる"参謀"的なトレーナーが欲しい。もちろん人件費を支払う余裕などないだろう。"給料なしで手伝ってくれる参謀的トレーナー"そんな都合のよい人間がいるだろうか。「まあ何とかなるだろう・・・」初めは結構楽観的に考えていた。 ある日、目をつけていた後輩のM君を食事に誘い、トレーナーの件を打診してみた。そば屋で働く彼の答えは、「今はそば屋として独立することを第一に考えたい」とのことだった。ただ、日曜日だけは時間がとれるので、手伝うことは可能だという。週に一日だけでも彼に任せられれば、非常に助かる―。ひとまず日曜日はM君に手伝ってもらうことに決めた。 ―そんな話をしてから約1ヶ月後、M君からかかってきた電話は私を落胆させた。「店員がひとり店をやめてしまい、日曜日も仕事を休めなくなってしまいました・・・」彼を責めることは出来ないが、期待していた男だっただけにがっかりした。とにかく新たな人材を探すべく、ボクシング関係の知人達に急いで連絡を取った。 しかし、私のお気に入りだったE君は、既に関西のEジムトレーナーとして活躍中。I君は遠くて通えない。Tさんは先輩なので、こちらが気を使ってしまう。U氏はトレーナーに興味なし・・・等々、だんだん楽観的でもいられなくなってしまった。 そんなある日、近所のあるバーのマスターから嬉しい情報が入った。「新田さんの"昔の後輩"だって人がお店に来てねえ、ジムをやるなら手伝いたいって言ってましたよ―」マスターが控えておいてくれた連絡先に電話をかけると、S君のなつかしい声が返ってきた。「やらせてもらいます!」やる気まんまんでそう言ってくれた彼の声を、私は今でも忘れられない。 女房とふたりの子供を抱えるS君は、夜中からお昼頃まで生鮮市場で働き、夕方から別のアルバイトをして生計を立てていた。「夕方のアルバイト代の分だけ面倒見てもらえないでしょうか・・・」経営的には、まだまだこの先どうなるか分からない状況だったが、私は彼に賭けることにした。「俺もいつかボクシングを教える仕事をしたいと思ってたんです。新田さん、ホントありがとうございます!」顔をほころばせる強面のS君に、感謝したいのはこちらの方だった。
新田ジム 最新情報
新田ジムから誕生した3人のプロボクサー、石井フランシス(30)、西 禄朋(23)、竹内俊介(22)のデビュー戦日程が決まった。 10月1日(水)後楽園ホールでおこなわれる金子ジムの興行に4回戦で出場する。対戦相手は現在交渉中だが、次週の当コラム掲載時には確定している予定。
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