新田 渉世 (元東洋太平洋バンタム級王者)
一難去って、また一難・・・ ジム設立まで<ピンチは続く 「何かに向って進もうと決意すると、必ずそれを妨げようとする力が働く。それが宇宙の法則だが、同時にそれは正しい方向へ向っている証しでもある−。」そんなことを昔の偉いお坊さんが言ったらしい。最初から大きな壁にぶつかったりすると、そんな事で自分を励まさなくてはやりきれない。ジム開設を決意し、会社に辞表を出した後に融資の話が水に流れるという最悪のシナリオの中、退社日は容赦なく訪れた。 直属の上司と同僚のひとりが、「最後だから一杯いこうか・・・」とミニ送別会を催してくれた。新たな門出を祝福して、共に汗を流した仲間として一席設けてくれたのである。そんな彼らに答える為にも、「なんとしてもこの苦境を乗り切るぞ!」と決意を新たにした。ところがその夜、更なる悪夢が訪れたのだった。 ほろ酔いでいい気分になった3人は、「もう1軒、歌でもいきましょうか!」と繁華街を歩いた。台風上陸が近づいていたため風が強く、人通りはまばらだった。ふと見上げると5階建てのテナントビルの最上階に、華やかなネオンが光っていたので「あそこにしよう!」と3人はエレベーターに乗り込んだ。ワンフロアに1軒という小さなビルで、エレベーターを降りるとすぐにお店の入り口があった。 扉は開いたままだったので中を覗いてみると人影が見当たらない。「何だか流行ってない店みたいだな。あまり良い店ではないのかもしれないな・・・。」と、入店をためらっていると突然中からひとりの男が出て来て「入れ!コラ、入れ!」と凄んできた。黒メガネに黒い帽子、黒ネクタイに黒ズボンの男はなんと我々に銃を突きつけてきた。(何なんだこの店は???)訳も分からず店の中に引きずりこまれ、客席に座らされた。辺りを見回すと、カウンターのレジが開けっ放しでその周りは煩雑に荒らされていた。そしてお店の一番奥の席で女性が目隠しをされて座っていた。―ようやく状況が飲み込めてきた。「こりゃ、強盗ですね。」上司と目を見合わせた。 いつの間にか黒装束の男は2人になっていた。彼らは銃をちらつかせながら「座れ!手をテーブルの上に置け!」とたどたどしい言葉遣いで命令してきた。どうやら日本人ではないらしい。仮にもボクサーとして“戦い”の中で生き抜いてきたのだ。「そう簡単にやられてなるものか―。」と密かに反撃のチャンスを狙っていた。しかし、腕、目、口とガムテープで手際よく巻かれてしまい、あっという間に情けない姿にされてしまった。“拳剛”達の酒場や街での武勇伝は、古今東西を問わず語り継がれているものだが、ちょっとそういう状況ではなくなってきてしまった。それどころか生きて帰れるかどうかさえ分からなくなってきた。「俺はまだこんな所で死ぬわけにはいかないんだけどなあ・・・」情けなく心の中でつぶやいた。 新田ジム 最新情報5/18(日)におこなわれたJBスポーツジムスパーリング大会に、当ジムより3名が出場した。1勝2敗で、1勝はKO勝ち、2敗も僅差の判定と、初出場にしては上出来の内容だった。 1名は金子ジムからの移籍(5月度プロテスト合格)、2名もプロテスト申請中で9月頃受験予定。今後詳細情報を随時発信します。
新田渉世(にった・しょうせい) 87年、横浜国大2年の時にプロデビュー。96年10月にOPBFバンタム級王座を獲得し、「国立大卒初の王者」としても話題となった。 34戦23勝(17KO)9敗2分
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