キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
息子達と

ライト快勝。中量級戦線異常あり?

 新中量級スターウォーズの幕開けとして行われたS・ウェルター級3冠統一戦はIBF王者ロナルド“ウィンキー”ライトがWBA&WBC王者“シュガー”シェーン・モズリーに判定勝ち。試合を報じるインターネットや新聞の見出しにも「ライト、モズリーにレッスンを施す」とか「ライト、モズリーを丸腰にする」なんてものがあったほどの快勝、大勝であった。

 予想賭け率が「3−1」でモズリー有利だったというから、これは番狂わせと呼んでいいだろう。筆者も苦戦を強いられながらもモズリーが小差の判定をモノにするのではないかと読んでいた。同時にライトが勝つには右ジャブとリーチを生かした徹底したアウトボクシングしかないと思っていたが、ライトは距離が狭まっても強かった。特に前半モズリーの動きを封じたボディーブローは勝利を引き寄せたキーポイントと言ってもいい。モズリーはこれまでの試合と比べてスピード感がなかったわけではなく、試合全般を通じて右ショートを打ち込む場面が目立った。それでも一度も深刻なダメージを被ることなく、ポイントアウトしたのだから、ライトは持ち前のディフェンススキルと同時にもタフネスも一流であることを大舞台で証明したことになる。

 32歳対決を制したライトがその地味なスタイルのためにデラホーヤやモズリー、トリニダード、バルガスといった巨星たちの影に隠れ、不遇の日々を過ごしていたことは知られるところである。だが、彼のキャリアを繙くと、モズリー戦の勝率はかなり高かったとも思えてくる。

 16歳で故郷フロリダ州ピーターズバーグのジムに通い始めたライトは、そのたった2週間後に州のゴールデングローブ大会を優勝したというツワモノである。また、ジムメートのデビッド・サントス(これまで世界に3度挑戦しているS・フェザー級ランカー)とスパーで手合わせし、翻弄してしまったエピソードも持つ。当時サントスはアマで60戦近いキャリアがあり、ライトはまだ駆け出しでグローブを握って数週間しか経過していなかった。とにかく当時「ピーターズバーグにライトあり」という評判があったと察しがつく。

 そんな天才少年だったライトだが、今回統一チャンピオンに君臨するまでの道程は、けっして平坦ではなかった。敵地でWBO王座を失い、フェルナンド・バルガスのIBF王座に挑んで惜敗したあたりが、キャリアの谷間だったかもしれない。記者は彼がIBF王座に就いた一戦を取材した。序盤切れ味鋭い左でダウンを奪うまでは「さすが!」と思わせるボクサーに映ったものの、以後のラウンドは正直、インパクトを欠く内容に終始した。リングサイドにはデラホーヤを擁するアラム・プロモーターの姿があり、勝利後ライトはデラホーヤ戦実現をアピールしていたが、日の目を見ることがなかった。サウスポーで懐が深く、相手にとって独特のやりにくさがあり、しかもモズリー戦で開花したように負けるリスクも考慮せねばないと来れば、デラホーヤ(陣営)とて対戦を拒むのは仕方ないことだった。しかも対戦者にとってライト相手では高額のファイトマネーが稼げないという不運もこのテクニシャンに付きまとっていた。

 それはモズリーを下して確固たる名声と地位、その他諸々の付加価値を獲得したあとでも、ライトを悩ます頭痛のタネのような気がする。ちなみに今回の試合、モズリーの報酬は250万ドル(約2億7500万円)、ライトはキャリア最高の75万ドル(約8250万円)と公表されている。モズリーが勝つことを条件にリングサイドではトリニダードとドン・キング氏がファイトを凝視していたが、標的のモズリーが負け、やりにくさを前面に戦うライトとすんなりサインするとは想像できない。今後ライトは当然、モズリー戦以上の報酬を手にできるはずだが、相手が文字通りの難敵ライトとリスク覚悟で戦うには、相当なファイトマネーを要求するはずだ。そうなると、ライトは思い通りに試合(防衛戦)が組めないという事態も頭に浮かぶのだ。

 私生活でもグッドガイといわれるウィンキー・ライトの快挙は下積みの長いボクサーやコマーシャル・スタイル(ファンの血をたぎらせる選手)でなくてもスポット“ライト”を浴びるチャンスがあることを世に知らしめた。だが残念ながら、必ずしも勝った者が(強い者が)最高の恩恵に浴せないというボクシング界の現実を浮かび上がらせることになるかもしれない。つまりライト中心に世界が回るとは思えない。彼のバックには以前、辣腕マネジャー、ルゥ・ディベラ氏が控えていた。もし2人の関係がいまだに続いているのなら、今度はディベラ氏の腕前に注目だ。

 

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