キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
息子達と

 マヨルガは勝っていた…?

 

 またしても判定問題に触れなければならない。今回、対象としたいのは昨日12月13日、アトランティックシティで挙行された8大タイトルマッチの一つ。8試合も世界戦があれば、特に最近の傾向として一つや二つ論議を呼ぶファイトがあってもおかしくないかもしれない。それに筆者はテレビ観戦だったので、テレビで流れなかった最初の3試合は結果だけしか知らない。その一つロセンド・アルバレス−ビクトル・ブルゴスのL・フライ級統一戦は三者三様のドローだったというから、かなり内容が競っていたとも予想される試合だ。

 ここで取り上げるのは、タイトル戦7試合目に行われたリカルド・マヨルガ(ニカラグア)対コーリー・スピンクス(米)のウェルター級3冠統一戦だ。試合は突進してラフなパンチを繰り出すマヨルガにスピンクスが距離を置いてアウトボクシングする予想通りの展開に終始した。フルラウンドの戦いが終わり、「マヨルガの負けはないな」という印象がした。ニカラグアの荒法師は5回と11回にレフェリーから減点を受けるハンディを負ったのだが、最終回にはスリップと判定されたものの、スピンクスを倒したように常にアグレッシブさが目立っていた。それに比らべ二世ボクサー、スピンクスは相変わらず線が細く見えた。前回のフォレスト再戦でも判定勝利を引き寄せたマヨルガの勢いがスコアに反映されると思えた。ところが公式採点は2−0。一人のジャッジは117-110 という信じられない差でスピンクスを支持していた。

 一夜明けて、アメリカに住む日本人の知人たちから続々電話がかかってきた。皆、話題はこの一戦に集中。「僕はマヨルガが勝っていたと思ったけど…」というものもあれば、「ひどい採点だったねぇ」と単刀直入に不満をブチ負ける友人もいた。どうも最近、疑惑の判定に慣れたせいか、「マヨルガの負けはない」程度に思っていた筆者は、かなり優柔不断な部類だったようだ。知人の一人が「あのテレビの進行役とコメンテーターはいったい何?!」と批判するように、ラウンドが進むにつれて彼らは、さもスピンクスがリードを広げているようなコメントを連発していた。それに惑わされていたのは他ならぬ筆者。優劣が微妙に見えたラウンドは意識的にスピンクス優勢と採点していたのだ。ちなみにこの日のコメンテーターはアウトボクシングの権化というべきIBFヘビー級王者クリス・バードだった。また、「レフェリングもスピンクスに味方した」という感想を述べる人もいた。いっしょにテレビを見ていた友達から「こんな戦い方をしていたら、マヨルガはいずれ負けるんだよね」と言葉を挟まれ、ますます信念(そんな大それたものではないが)が揺らいでしまった。

 自分も含めた日本人がマヨルガの勝ちを主張するのなら、地元アメリカのマスコミはどう報道しているのか――とインターネットていくつか検索してみた。まず「マックス・ボクシング」というウェブサイトは試合展開の描写でマヨルガに関して「仕掛ける、用心しない、オーバーアクション、シロウトっぽい」というフレーズを使い、対するスピンクスには「うるさいジャブをコショウのように振りかける、疾風のようなアタック、注意深い、不屈の闘志」といった言葉を用いて戦いぶりを表現している。マヨルガはともかく、スピンクスに関して疾風とか不屈といった文句は不釣り合いだった気がするのが、どうだろうか。レフェリーの処置については「最終回、脇腹打ちでスピンクスが倒れたが、トニー・オーランドはカウントを取らなかった」と事実だけを記述。そしてマヨルガのコメントをそのまま引用している。「絶対に私が勝った試合だ。レフェリーは敵サイドにいた。彼は私からポイントを奪うべきではなかった。もし減点がなかったら、私が勝っていたファイトだった。スピンクスのパンチは全然効かなかったし、クリーンなパンチを当てていたのは私の方だ。だからジャッジたちは何を見ていたのか私にはわからない」

 もう一つの「ファイトニュース」というサイトは試合直後の速報で「スピンクス、マヨルガにレッスンを施す!」という見出しをつけて報じていたが、翌日には「スピンクス、マヨルガに判定勝ち!」とタイトルが変わっている。前者ではあまりにも誇張しすぎたと思ったのか?内容はスピンクスのスキルの優秀さを讃えながら進み、「“スピンクス・ジンクス”は生きていた。美しいディフェンスを披露しながら、マヨルガのカリスマ性が色あせるような十分な攻撃力を発揮していた」と解説。ちなみにスピンクス・ジンクスとはモハメド・アリを破った父レオンとラリー・ホームズの野望を砕いた叔父マイケルとの関連性ことらしい。大舞台で強いということを証明した、と言いたいのだろう。それにしても今回のコーリーのパフォーマンスを「十分な攻撃力」と言い表すのは、かなりマユツバものだ。だが、こうやってスピンクスを持ち上げておいて最後には「判定がコールされた時、観衆は諦めの極致に陥っていた。彼らの多くは終始ノンストップで前進を繰り返したマヨルガが勝ったと思ったに違いない。アナウンスされたスコアは驚きを与えるものだった」と結んでいる。

 他には「ニューヨーク・デイリー・ニュース」紙の記事を引き出してみたが、スピンクスの3冠統一でドン・カリー以来、17年ぶりにウェルター級統一チャンピオンが誕生を伝えながら「8つのタイトルマッチのうちでもっともスリルがあり、スペクタクルものだった」と絶賛。確かに両者の駆け引きなど目に見えない緊張感があった気がするが、スピンクスのディフェンシブなボクシングがアクションの限界を感じさせていたのも見逃せない真実だった。

 裁定に対して不満をまくし立てたマヨルガだが、リング上では清く、勝者を祝福していた姿が印象に残った。もしこの一戦に勝っていれば、3月にはシェーン・モズリーとのビッグマッチが濃厚といわれ、その後にはデラホーヤ戦も視野に入れていただけに、マヨルガにとってこの一敗は非常に痛い。逆にスピンクスはS・ウェルター級に上がり、モズリー挑戦を望む意志を表明している。しかし、また知人の話に戻るが、「こんな判定が下るのなら、本田秀伸がムニョスに勝ったこともありうるのでは…」という意見も尊重したくなる。プロモーターはドン・キング。彼の思惑がスピンクスを勝たせた……などといつもながら裏事情に首を突っ込みたくなる。勝ったスピンクスには何の恨みもないが、彼を一躍中量級戦線の主役に踊り出たと評するのは、まだまだ気が早すぎる。

 

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