キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
M.A.バレラと筆者


 タイソンK−1参戦の憂い


 日本の格闘技界はマイク・タイソンのK−1参戦騒動で大きく揺れている。最近、この件に関してアメリカのボクシング関係者の反応、生の声を取材してほしいという格闘技のマスコミからの依頼が筆者のもとにも届いている。おそらく日本のボクシング界も同様だと思うが、アメリカのそれも良くいえばクール、悪くいえば冷ややかな態度を取っているように感じられる。

 毎日、目を皿のようにして捜しているわけではないが、ボクシング関係の新聞記事でこのタイソンK−1進出を報じたのは、今のところごく少数だった。事の発端となったK−1の超人気選手ボブ・サップの試合にタイソンが乱入したラスベガスで、後日地元紙が少し扱った程度。あとは通信社から日本発の記事で今回の事のあらましが伝えられているくらいである。テレビの方もスポーツニュースとしても流しているところはなく、“無視”を決め込んでいる印象だ。これはボクシング試合に関してタイソンと独占的な契約を交わしているケーブルTVのショータイムの影響力の強さを物語っている。

 日本ではK−1に代表される格闘技ブームのあおりを受け、我がボクシング界は「人気復興案」が真剣に討議されるほどで、どうしても低迷している印象が拭えない。「総合スポーツ誌」と呼ばれる某雑誌を手に取っても、格闘技関連の記事は毎回派手に掲載しているのに、ボクシングの記事は目にする方が珍しいという状態である。ジョッピー対保住直孝のミドル級世界戦のテレビ中継がK−1に“ハイジャック”される屈辱もボクシング界は味わっている。

 畑山隆則の引退以来、悲しいかなボクシング界には対抗できるスターが出現していない。日本人ファンはエンターテイメント性の高いプロレスにしても、K−1にしても“観る目”はより真剣勝負として捕らえている気がする。それはそれで観戦態度として反論をはさむことはできないのだが、それだけ「最強は誰なのか」、「最強の格闘技は何か」といった命題により関心を抱いている。そこに巨漢たちの派手に倒れるシーンが続出すれば、爽快感も満足でき、人気もウナギ上りというわけだ。

 タイソン招へいは、そんな華やかな格闘技リングに新しい1ページを刻むことになるのか?それともただの茶番劇に終わるのか? タイソン本人にとっても2,700 万ドルといわれる多額の負債を軽減するための手っ取り早い方法は、プロレスぽっいのか真剣勝負なのかで意見が分かれるこTYSON.AFTERWARD.CF.03082.JPG - 13,406BYTESのK−1で戦い、ガッポリと稼ぐことなのだ。レノックス・ルイスなり、ロイ・ジョーンズと一戦相見えれば、もっと魅力的なファイトマネーが獲得できそうなものだが、正直、今のタイソンには“実力の世界”ボクシングで負ければ、精神的にも肉体的にも決定的なダメージを被ってしまうことが心配される。ボクシングに一番怖さを感じているのは、ほかならぬタイソン自身かもしれない。アメリカでも多くの人々が「タイソンはもう二度とボクシングのリングには上がらないだろう」と本気で思っている。そういった意味である関係者は「タイソンはK−1に命を懸けるかけるかもしれない」と言い切った。

 それでも今の段階で、タイソンが周囲の期待に応えてK−1の試合に出場するには問題が山積みされているという。第一、いつも犯罪者のレッテルを張られているタイソンがすんなりと日本に入国できるのか。ルールにしても今でこそ「ボクシングにこだわらない」と“リップサービス”を連発するタイソンだが、実際リングに上がるとなると、相当制約を要求するだろう。そうは言ってもボクシングそのものではないだけに、どうしても“相手の土俵”で戦うことを余儀なくされる。それがけっして甘くないと悟った時、果たしてタイソンは再びボクシングの世界に舞い戻って来る気持ちがあるのだろうか。

 このK−1狂騒曲と平行して、タイソンには12月6日(ボクシングの)試合を行うというニュースも伝わっている。筆者はこちらの方を信じたい気持ちなのだが、もう流れはK−1一色の状態。昔、某元世界チャンピオンたちが大挙して当時人気の高かったキックボクシングに転向した時は「キックへ移籍」と報じられた。今回タイソンに対してまだ「K−1行き」というニュアンスが感じられないことは、本人がボクシングに対して未練を残しているということの表れなのか。ほんの一夜の不摂生、気の緩みが結果にモロに響くボクシングの怖さと崇高性。鉄人マイクのボクサーとしてのキャリアは明らかに終焉に近づいているようだが、最後のひと花を咲かせたいという気持ちもすでに消え失せているのか? それが事実なら、これ以上悲しいことはない。

 

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