サンダース?ターバー?揺れ動く王様ジョーンズの去就
アセリーノ・フレイタスが同じ南米人のホルヘ・バリオスと激闘を演じてベルトを守ったマイアミのリングに、ロイ・ジョーンズ・ジュニアの姿があった。この日のアンダーカードに同郷のペンサコーラの選手が出場したことが彼を南フロリダへと旅立たせたのだろう。親友デリック・ゲイナーの例を出すまでもなく、ジムメートを鼓舞することにはマメな男である。だが、リング上のパフォーマンス(といっても彼がパンチを繰り出したりしたわけではないが)から、旅の理由はそれだけではなかったようだ。
彼が契約するHBOのライバル、ショータイムの試合にもかかわらず、レポーターからマイクを向けられたジョーンズは最近の周辺情報を総まとめするようにこう言った。「サンダースとは金のため。ターバーとは個人的な理由のために戦う」。試合の宣伝効果をねらっていたのだ。
ヘビー級王座獲得後のジョーンズには契約寸前だったホリフィールド戦をはじめとしてレノックス・ルイスにクリス・バード、はたまたマイク・タイソン、そしてバーナード・ホプキンスといった対戦候補者の名前が次々と列挙された。それはジョーンズがあたかもパウンド・フォー・パウンド最強の称号を享受しながら、自分の意志で自由に相手を選択できる特権が与えられているような錯覚まで起こさせるほどだった。だが、先週末、かなり精度の高いニュース源からWBOヘビー級王者コーリー・サンダースの名が急浮上。現在アメリカのボクシング・シーンに最大の影響力を持つ人物といわれるマーク・タフェト氏(HBO重役)をして「そのニュースを知った時、たちまち我を忘れて有頂天になってしまった…」と言わしめたように、テレビ局を大いに乗り気にさせ、11月8日PPV開催に向けて、事は動き出した。
正直なところ、このジョーンズ−サンダース戦は意外な展開に思える。まず、仮にもメジャー団体のヘビー級王者サンダースを軽視するわけではないが、大物選手ばかりがライバルとして並べられるので、虚を衝かれた印象もする。それよりも、サンダースはウラジミール・クリチコを衝撃のKOで破って戴冠したものの、クリチコを擁するドイツのユニベルサム・プロモーションとWBOとの板ばさみに苦しんでいる事情がある。サンダースには希望する1位デビッド・トゥアとの防衛戦に待ったがかかり、2位ラモン・ブリュスターとの“指名試合”が義務づけられ、それに応じなければ、タイトルはく奪という事態が待っているのだ。偶然、必然は別としても、ジョーンズ−サンダース戦の話題と同時に、ユニベルサムがドン・キング・プロモーションを押さえてサンダース−ブリュスター戦を落札したというニュースも流れている。
一方で、ショータイムの放送席でビッグマネーの魅力を否定しなかったように、ジョーンズはサンダースを“現時点”で最高の報酬が得られる相手として割り切っていることも考えられる。そしてもちろん勝算も十分ありと。ヘビー級進出にあたり、もっとも攻略しやすいと思えたジョン・ルイスにアタックしたジョーンズだけに、パンチャーながらベテランのサンダースを今後のビッグマッチへの敷石ととらえているのだろう。それでもクリチコ戦を振り返ると、天才ジョーンズにとっても相当危険なライバルに思える。両者が対戦に合意した場合、ジョーンズの取り分(ファイトマネー)がいくらに落ち着くのかも、サンダースの“難易度”を計る尺度になるのではないだろうか。噂ではサンダースがWBO王者であり続けることもジョーンズは契約条件に加えたい意向だという。
もう一人、ターバーの名前が聞かれた時、以前何かの試合で使われたキャッチフレーズ、“アンフィニッシュド・ビジネス”(やり残した仕事)という言葉を思い出してしまった。もはや軽い階級へのUターンはないと思われていたジョーンズが、L・ヘビー級に戻って彼の後継チャンピオンに就いたターバーと雌雄を決するとは、これも意外なストーリーである。ジョン・ルイス戦直後の会見で、ジョーンズにかなり挑発的な言葉をぶつけていたターバーを封じ込めることがモチベーションを高めることにつながっている。
自分が無敵を誇ったクラスの新しい支配者にライバル意識を燃やすところは、常に最強へのこだわりを見せるジョーンズらしいではないか。体重を落としてどんなパフォーマンスを披露するのかも注目の的となる。ただ、ルイス戦以後ジョーンズとの関係を強化しているドン・キングが「ヘビー級戦以外の試合には関わらない」と発言していることから、条件面の交渉がどの程度進展するか未知数といえる。いずれにせよ、サンダース戦が決裂すればという条件が、このターバー戦実現にはつきまとう。ヘビー級制覇のインパクトには及ばないが、ターバーを撃退すれば、またそれなりの名声を獲得することは間違いないだろう。
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