キャッチ三浦の

アメリカン・シーン

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三浦  勝夫
(ワールド・ボクシング米国通信員)
M.A.バレラと筆者

 

クリチコ撃退にも、ルイスの今後に暗雲?
 ロス45年ぶりの世界ヘビー級戦を観戦して 
                                         

 これまで軽量級、中量級では歴史的なファイトが何度も開催されたボクシングメッカのロサンゼルスだが、今回のレノックス・ルイス−ビタリ・クリチコ戦は1958年8月のフロイド・パターソン対ロイ・ハリス以来、45年ぶりの当地でのヘビー級タイトル戦。同級のビッグマッチでも73年9月のモハマド・アリ−ケン・ノートン第2戦(フォーラムで挙行)までさかのぼらねばならない。そして試合まで2週間を切った時点で最終的なカードが決定するというハプニングにも見舞われた。

 ロックの名曲「ホテル・カリフォルニア」をバックに登場したクリチコは緊張感に満ちた印象。対するルイスはリングに上がっても全く表情を変えず、いつも通り凄みを利かせる。予想を聞かれた半数以上の記者が「2ラウンド以内で終わるだろう」と言っていたことが、あと数分で現実になりそうな予感がした。ややクリチコ優勢で終了した初回の後も、その可能性を残しているように感じられた。
 ところが続く2回、クリチコの猛攻にさらされ、あわやダウンというピンチを迎えたのは実質的な統一王者ルイスの方だった。パンチをもらった時の反応やステップのぎこちなさから調整不足は否定できない。逆にビッグアップセット(番狂わせ)のシーンも期待できる展開となった。余談だが、前々日の計量でルイスに声援を送った英国人サポーターよりも、実際会場では青黄色の国旗を振るう、ウクライナ人サポーターが幅を利かせていた。また、ルイスの地元イギリスのメディアよりもクリチコがホームとするドイツからのマスコミ関係者が数で上回っていた。

 結果的に試合は、ルイスの6回負傷TKO勝ちに終わり、ファンはクリチコ同様、不満をあらわにした。だが、6ラウンドまでの攻防はヘビー級の醍醐味を十分堪能させてくれるものだった。3回、勝利を決定づけることになったワンツー(左で切れたという説もあり)を口火に「さすがルイス」とうならせる剛打が何度もクリチコを強襲する。傍目には「危ない!」と見えたシーンも博士号を持つイン
テリボクサーは「ルイスのハードパンチは全然もらわなかった」と気丈に答えたものだ。弟ウラジミールが伏兵コーリー・サンダースに無残なKO負けで落城した一戦から、兄ビタリのアゴにも?マークがつけられていたのだが、この試合で彼がもっともアピールしたのはタフネスだったように思う。
 試合後の会見で「なぜ、ドクターがストップしたのか分からない」としきりに不満を口にしたクリチコ。コーナーでは名カットマンのジョー・ソウザ氏が止LEWIS RADIAL.JPG - 22,318BYTES血に精を出していたのだが、左目の真上、傷口は外科医的な手が必要なほど深く、ストップは致し方ないだろう。

 さて、とりあえず指名試合をクリアーしたルイスの今後はどう展開するのか。このクリチコ戦の前はタイソンとの再戦、ロイ・ジョーンズ戦などが話題になっていたが、同じ会見の席ではこの二人の名前は聞かれなかった。これは記者たちの質問がTKOの裁定に集中したせいもあった。唯一「あとどれくらいで引退を考えているか?」と聞かれて「ノー。それはノーコメントだ」とルイスは答えてはぐらかした。
 オプションの一つタイソンは、ニューヨークで再び逮捕事件を起こし、相変わらずのトラブルメーカーぶり。リマッチ実現は難航しそうな状況。ルイスは「とくにコンディション不良ではなかった」と言っているが、もしそれが本心なら、このクリチコ戦で衰えを露呈したとも断言できるのではないだろうか。ルイス本人は「もし試合が続行されていれば、2ラウンド以内に倒していた」と強調した
のだが、今、ルイスが確実に勝てる相手はランカーを見渡しても、そう多くないかもしれない。ベルトを守っても近い将来、ヘビー級の新旧交代劇が起こりそんな気配も。そんな予感を抱かせたファイトだった。

*ルイス−クリチコ戦を流した英国のテレビは、同時に地元選手の試合をタイアップ。WBCフェザー級2位マイケル・ブロディがフアン・カブレラ(亜)を12回判定で下し、王者エリク・モラレスが返上予定の王座を1位池仁珍(韓国)と争う予定。一方、WBC・S・ウェルター級7位リチャード・ウイリアムズはセルヒオ・マルティネス(亜)を相手にIBO同級王座の防衛戦を行ったが、0−3の判定負けを喫した。

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