論議呼んだライト級統一戦
ドローで「おめでとう」とは?
試合後、大方の見解に反して「私が勝ったと思う。私は真のチャンピオンらしく戦った」と苦しい胸中を明かしたのが、辛くも落城を免れたスパダフォーラだった。確かにこの夜のIBF王者は本来の端正なテクニシャン・スタイルを放棄し、顔面を多量の血に染めながら、突進するドーリンとパンチ交換に応じるシーンが何度もあった。だが、ドローという公式裁定は“地の利”以外の何物でもなく、限りなくプロ初黒星に近かったと評されても反論できまい。
主要4団体のチャンピオンがすべて無敗というライト級。そのうち2王者が対決した好カードは、三者三様の引き分けに終わり、待望の統一王者は誕生しなかった。テレビ(HBO)のコメンテーター、ラリー・マーチャント氏は試合終了後、即座に「私はドローだ」と発言しリング上のインタビューでも両雄に対して「コングラチュレーション(おめでとう)」と声をかけた。だか、この日放送席にすわったもう一人の解説者エマヌエル・スチュワード氏は「大差でドーリンの勝ち」と反発。HBOの非公式スコアも116-112
の4ポイント差でドーリン。筆者も117-111
でWBA王者の快勝に映った。
王座獲得戦からずっと判定勝利続きのスパダフォーラに対して、カナダ在住のルーマニア人ドリーンもこの日まで20勝7KO1分と、パワーを売り物にする選手ではない。下馬評はスパダフォーラ有利ながら、両者のスタイルからフルラウンド勝負という見方で一致していた。そこで論議を呼んだのが3ジャッジの選定。両陣営の思惑などが影響し、当初アメリカの2州(カリフォルニアとインディアナ)のジャッジとデンマーク人と発表されたものの、最終的にWBAをバックグラウンドに持つパナマ人ジャッジがデンマーク人と入れ替わった。
前述のスコアを見てもわかるように、テレビと筆者の採点は1つのラウンドを除き、ほぼ一致。放送の流れも時折「ここはスパダフォーラの地元ピッツバーグですから(スコアは)アナウンスされるまで分かりません」とコメントが入るものの、ドーリン優勢の試合展開を伝えていた。だからカリフォルニアのラッセル副審が115-113
でドーリンの勝ちと最初にコールされると、パナマ=WBAという関係で「少なくとも2−0か2−1でドーリンの勝ち」という構図が頭に広がった。ところが次に発表されたペレス氏(パナマ)の採点は何と115-114
でスパダフォーラを支持。案の定、3人目インディアナのメリット氏は(名前のわりには誰にもメリットを与えず)114-114
のイーブンと採点した。(上写真:勝ちを拾ったスパダフォーラ)
統一戦というと、こんな両王者ベルト安泰という結末が意外に多い? と思っているのは筆者だけだろうか。一昨年11月のマニー・パッキアオ対アガピート・サンチェスのJ・フェザー級統一戦も、途中でテクニカル・ドローに終わったが、まるで申し合わせたような最終スコアの“帳尻”あっていたのを思い出す。絶対にそんなことは許されないのだが、試合前、何らかの魔の手が介入されたと勘ぐりを入れてしまう。それがボクシングの人間くささの現れなのかもしれないが…。
それにしても採点にクレームをつけず、全力を出し切ったことを強調したドーリンの態度がとても清々しく見え、唯一救われた気持ちがした。
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