ゲストコラム : トレーナーの目 vo.7
石井 敏治 (新日本木村ジム・トレーナー)
世界を狙うには技術の研鑽が必要である
昨年の暮れから種々事情があって、永い間にわたって通い続けたジム通いもままならず、不本意ながらたまにしかジムに顔を出していない。
試合場に足を運んでもセコンドに付くこともなく、もっぱら選手に声援を送る立場になっている。こうなると試合を見る目が以前より冷静かつ客観的に見られるようになった。 去る10月13日、後楽園ホールで行われた日本ミニマム級タイトルマッチをジムの会長が用意してくれた赤コーナーのすぐ前の席で観戦した。
チャンピオン小熊坂諭(新日本木村)、チャレンジャー鈴木誠(野口)ともにKO率50パーセント以上の選手同士なので、多くの観戦者はダウンシーン必至と期待していたであろう。私も同様の期待をもっていた。しかし、第1ラウンドが終わり第2ラウンドが始まって間もなく、小熊坂の目がいつになくよく見えている(視力ではなく、相手の挙動を読み取る洞察力のこと)ことに気がついた。
こうなると、小熊坂が初防衛戦で指摘された攻撃のラフさは陰を潜めたが、慎重になり過ぎて、チャンスを作るとか、積極的にチャンスを捕らえようとする行動が阻止されてしまった。これにはチャレンジャーの戦法に由来するところも大きい。チャレンジャーは首を傷めて治療に手間取り13ヵ月ぶりの試合で、しかもタイトルマッチとあらば力むのも当然であろう。元王者が強打者を自負していれば、小熊坂も相手の強打を警戒するあまり、時折繰り出すサウスポー得意の右フックのカウンターのタイミングがずれて効果を発揮できない。また、小熊坂には過去に不用意に繰り出した左ストレートでこぶしを複雑骨折した苦い経験があるので、左で打つ時はよほど自分のパンチを繰り出すタイミングの読みに自信がないと作動しないのではないかと思う。そして打った後に左手に若干なりとも違和感を感じた場合も同様であろう。
片やチャレンジャーは前述したようにカウンターを打つ機会を窺ってあたかもアリ地獄のように自分のテリトリーに獲物が入るのを根気よく待ち続けたとしか思えないような作戦に終始した。この結果、観客は強打者同士の対戦のスリルは感じたであろうが、感動の伴わないものに終わってしまったと思う。
ミニマム級は世界王座に比較的近い所に位地するものである。そのチャンスをものにするためには、言うまでもなく先天的なカンとか強打、運動量の物量に頼るのではなく、技術面の研鑽が必要だ。特にフェイント、ドローイングがこなせるようにならなくてはならない。斯く言う私にして、これらを選手に指導することの難しさは十分知っている。しかし、これは避けて通れない重要なことであることも理解している。
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現在も新日本木村ジム・トレーナーとして指導に当たっている石井氏
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