ボクサーが試合において、その持てる力を存分に発揮できるか否かは、当日のコンディションの如何と共にセコンドの寄与するところがきわめて大きい。
JBCのルールブックに規定されているセコンドとは、セコンドライセンス所持者。クラブオーナーライセンス所持者並びにマネージャーライセンス所持者が、その契約下のボクサーに限りセコンドをすることができる。クラブ専属のトレーナーライセンス所持者が、そのクラブ専属のセコンドを兼ねることができる。セコンドの構成は、チーフセコンド、アシスタントセコンド2人の計3人で、これ以外の人がセコンドに就くことは許されない。試合が始まり、全てのラウンドが終了するまでの間、リング内に入れるのは、この中の1名である。セコンドがリング内に立ち入ることが許されるのは、試合開始前、ラウンド終了直後から、開始10秒前のホイッスルが鳴るまでの間である。
セコンドは、JBCの定めたルールを尊重し、それを厳守しなければならない。万一、違反すれば注意、警告を受け、なおそれに従わない場合は、コーナーから退去を命じられ、ライセンスをサスペンドされ、または介添えされたボクサーが失格させられる場合もある。
試合中セコンドは、声援、合図、刺激等は行わずに所定の場所に静粛にしていることが義務づけられている。セコンドは許された1分間の休憩時間内にボクサーの疲れを癒し、場合によっては負傷の手当てをし、次のラウンドに対する作戦指示を与えなくてはならない。
このように短時間に過密な専門作業を強いられるセコンドは、理想を言うなら、ひとりは日頃から介添えするボクサーの練習を指導していて、長所、短所をよく把握していて且つ十分なる信頼を寄せられている人。リング内への椅子の出し入れ、ボクサーのうがい、マウスピースを取り出し、装着、洗浄、タオルによるグローブのワセリン、汗の拭き取り等の作業に慣れていて手際のよい人。休憩時間に相手のボクサーの状態を察知し、相手のセコンドの指示を洞察できて、それを、こちらの陣営に助言できる人で、なお、こちらのボクサーのダメージの限界を知り得る人。この3人が協力し合って行ってこそ出来る作業であろう。ボクサーに対するアドバイスは、セコンド同士の事前の打ち合わせにより、3人の内の一人がボクサーに指示する。アドバイスの要点も試合中にセコンド同士で打ち合わせておく。アドバイスは、3点以内の必要事項に止め、ホイッスルが鳴る15秒前に指示するのが好ましい。言うまでもなくセコンドは、終始冷静沈着の心境であることが求められる。間違っても、3人がそれぞれ異なった意見を喚くように言ったり、試合中大声で怒鳴ったり、大きな手振りで跳ね上がって合図するようなことがあってはならない。
冷静さに秘められた闘志があってこそ、ボクシングの格調は高まる。ボクサーと一心同体のセコンドにも同じことが求められるものと思う。
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現在も新日本木村ジム・トレーナーとして指導に当たっている石井氏 |