夢かうつつか、酔いどれ記者が行く
芦沢 清一
『 酔いどれ交遊録 』
輪島 功一さん(2)
酒場でも論客、玉に瑕は……
輪島功一さんとは御徒町の大衆酒場「円八」で、たまに一緒に飲む。60の坂を越えた店主の関口昭さんは、若かりしころ自分でもボクシングをやっていたそうで、一家言を持っている。輪島さんやロイヤル小林さんが現役のころ、試合の度に激励賞を出すよきスポンサーだった。恩義を忘れない輪島さんや小林さんが、今でも店に顔を出すのだ。
2、3年前まで、輪島さんはフジテレビのボクシング解説をしていた。その折はテレビ局が付けるハイヤーで宅送りをしてもらっていた。輪島さんはハイヤーを待たせて「円八」でいっぱいやって帰るのが常だった。店前の狭い駐車場に、大きなハイヤーが窮屈そうに留められているのが印象的だった。
つい先日、後楽園ホールでの試合後、関口さんと私が連れ立って「円八」に行くと、先着の輪島さんが、かなりきこしめしていた。愛用はサントリーオールド。氷や水で割らずストレートでのどに流し込む。真似のできない強さだ。
その時も、店のお客さんを相手におだを上げていた。いつもそうなのだ。思わぬ場所で輪島さんを発見したファンは、ラッキーとばかりに握手やサインを求めて近づき、折り合えば話し込んだりする。かつて“飯場のチャンピオン”と言われた人らしく、飾りッ気なくファンと接している。
時として説教口調になるのが玉に傷であるが、中には納得顔で聞いている人もいる。私が感心したのは教育論である。ジムの会長さんは大概そうであるが、輪島さんはとりわけ礼儀、しつけに厳しい。学校に押し付けるのではなく、家庭で教えるものというのが、この人の持論である。私はかねてから、ボクシングジムが社会教育の場として重きをなしているという認識を持っていたが、輪島さんと話していて意を強くした。
輪島さんはまた、強固な国防論者である。堂々と軍隊を持って、一朝事あれば武力で祖国を守らなければならないというタカ派だ。武力で他国を威圧するべきでないとするハト派の私とは意見が対立する。昔、そんなことで議論したこともあったっけ。
最初に「円八」で輪島さんと酒の席を一緒にした時のことだ。会計の段になるや、輪島さんが首からヒモで吊るした財布を取り出したのには笑ってしまった。大の男にこんな安全策を講じたのは賢夫人・多生代さんの配慮だった。輪島さんが1度、財布を無くしたので予防策を施したらしい。
「円八」における最初の宴以来、会計は輪島さんが1人でかぶっている。いくら割り勘を主張しても、受け取ってくれないのだ。フジテレビの「ダイヤモンド・グローブ」の収録がある日は「円八」に足を向けないようにしたこともある。普段でもひょうきんな輪島さんは、飲めばますます愉快になるが、1つだけ注意しておきたいことがある。お尻に触られたくない女性は、傍に寄るべからず。セクハラは教育の埒外にあるらしい。
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