夢かうつつか、酔いどれ記者が行く  芦沢 清一
『 酔いどれ交遊録 』

新開徳幸・新開ジム会長

ゴルフは「百獣の王」でもギャンブルはプロフェッョナル


ゴルフ「池田会」のメンバーで、最も豪快だったのが、新開ジムの新開徳幸会長だ。この人、決してゴルフはうまくない。言うところの“百獣の王”で、私と競っていた。比喩は110に例えたものであり、もちろんラウンドのスコアである。ゴルフを知らない人のために言えば、要するに下手なのである。このようにして、このコラムでは、私と付き合いのあった人の、知られたくない事実が暴露されることもある。
 新開さんは元ボクサーだけに、体力はばりばり。私のように、きのう飲んだビールと、きょう飲んだ酒が合併して、ゴルフの途中棄権などというぶざまな姿は、見せたことがない。
 新開さんのティーグラウンドにおける、豪快なショット(ボールはどこへ行くか分らない)を見たら、パンチをブンブン振り回すラフファイターがイメージされる。ところが新開さんは、打ち合いを避ける合理的なボクサーだったらしい。
 ボクサーとして目覚しい実績を残せなかったし、川崎市にジムをオープンして十数年経つのに、日本チャンピオンはおろか、新人王さえ出していない。私的なコラムだからこそ遠慮なく言えるのだが「しっかりしろよ、アミーゴ」である。
 そんなことを一切、意に介していないのが新開会長である。何を考えているのやら。うらやましい限りの好き勝手人生である。元をただそう。笹崎ジムの先輩である原田政彦さん(ファイティング原田)が、日本プロボクシング協会の会長になった10年以上前、補佐役として協会の執行部に入った。高校(PL学園)時代に原田さんの試合を大阪で見たのがきっかけで、高校を中退して上京、笹崎ジムに入った新開さんが、引退後に原田さんをサポートすることになったうれしい構図だ。
 ボクシング協会と記者クラブの合同ゴルフコンペがあった前夜の懇親会の時だ。「ボクシング界をよくするために、何をしなければならないか、芦沢さんのご意見をうかがいたい」と振ってきた。
 酔っ払い同士だった。新開さんも酒豪だ。細かいことは覚えていないが、私は実現不可能な難題を押し付けたに違いない。新開さんが口から泡を飛ばして、私に食ってかかった図が思い出される。聞き流せばいいのに、ムキになって反論するところに、原田さんに対する忠誠心を垣間見た。当時を振り返って新開さんは言う。「芦沢さんは頑固だ」。
 協会の執行部にいたころ、新開さんは事務局に詰めていることが多く、ジムの運営を弟に任せていた。それがパターンとなり、執行部を離れた今も、ジムの主役は弟さん。体を持て余す新開さんは、なんとプロの車券師で生きているそうだ。
 車券師とは競輪の勝ち負けに、財力を賭けている人。新開さんは今年1月、約200万円配当の大穴を当て“本職”は順調だとか。先日、ちょっとだけご馳走になった。池田会長の逆鱗に触れた上滝さんではないが「パッと芸者のいる割烹にでも行こうよ、新開さん」

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